TENDRE POISON ~優しい毒~
神代は落ち着くと、鼻をすすりながら起き上がった。
「ごめん。かっこ悪いところ見せた」
起き上がった神代の顔はどこかすっきりとしていた。悲しみや不安をどこかに置いてきたみたいだ。
でもこの一瞬だけだ。悲しみはまたやってくる。何度でも、何度でも……
あたしが生きてるかぎり。
「かっこ悪くなんてないよ。先生はいつだってあたしの前では世界一かっこいいんだから」
神代はびっくりしたように目を丸めて、ぱちぱちと瞬いた。
あたしはちょっと笑った。
「なんてね」
あたしの言葉に神代は「何だ冗談か」とちょっと苦笑いを漏らしてた。
―――
――
何時間たっただろう。
痛みで目が覚めた。左肩から手首にかけてと、腰の辺りがまるで刃物でつつかれてるみたいな痛みを感じる。
痛い。
痛い、なんてもんじゃない。ガラスに突っ込まれたときより何倍もの痛みだ。
まるで焼かれてるみたい。
遠くでドアが開く音がした。
うっすらと目を開けると、扉の向こう側の灯りを背景に神代が立っていた。
先生……痛いよ。
あたしは手を伸ばした。
でもきっと乃亜姉の痛みには比べ物にならないよね。