TENDRE POISON ~優しい毒~
◆午後1時の嫉妬◆
◆◆◆◆◆◆◆◆
「いってらっしゃーい」
鬼頭が笑顔で送り出してくれた。
それを思うとちょっと嬉しくなる。家に誰かいて、自分を送り出してくれるのって慣れないからくすぐったくもあり、思った以上にいいことなんだな、と実感する。
上機嫌で学校に着いたものの、職員室では昨日の事件の話で噂が持ちきりだった。
僕が職員室に一歩足を踏み入れると、噂をしていた先生たちがぴたりと話をやめ僕のほうを一斉に見る。
「また生徒が……?」
「今度は一年の鬼頭ですよ」
「去年は神代先生が受け持ってた楠だったでしょ?神代先生も災難ですよね」
ひそひそと話し声が聞こえる。
痛いほどの視線を感じながら、僕は自分の机に落ち着いた。
「あ、先生。おはようございま~す」
和田先生がいつもの調子で挨拶してきた。そのことにちょっとほっとする。
「おはようございます」
和田先生は僕の後ろに位置する机に鞄を置くと、椅子を引き寄せて僕の隣にきた。
「鬼頭、大丈夫でした?」
「え?」
「神代先生、病院までついていったんでしょう?」
「え、ええ。少し縫うことにはなりましたけど、傷跡は残らないみたいです」
「良かったですねぇ」和田先生は彼なりに心配していたのだろう。ほっと安堵した様子で胸を撫で下ろした。
「あの……鬼頭を怪我させた女生徒は……」
ずっと気になってはいた。彼女らがどうなったのか。
「いやまぁ、三年ですし。受験シーズンでしょ?それに鬼頭にも非があったわけで……。事故ということで厳重注意で終わりましたよ」
「そう……ですか」
鬼頭には何も非がない。
悪いのは僕だ。
僕は自分自身を罰しなければならない。そんな気がしてならないんだ。