TENDRE POISON ~優しい毒~
まこがびっくりしたように手を引っ込めた。
唖然とした顔で目をぱちぱちさせてる。
初めてだ。まこに怒鳴ったのなんて。
「あ……」ごめんと言いかけたとき、鬼頭の手が伸びてきて僕の肩に触れた。
いつの間にかパーカーを着ていた。
「先生、話を聞いてよ」
驚くほど低く、表情はすわっている。
鬼頭は僕より8歳も歳下なのに、この場の誰よりも冷静だった。
「林先生は傷の消毒してくれてただけだよ。でも足が滑ったあたしを助けてくれただけ」
「え?」
僕はまこを見た。
まこは肯定の意味なのか軽く肩をすくめただけだった。
「でも下着姿で……」
「消毒するのに、服着てできる?」鬼頭はちょっと笑った。別にバカにされてるわけではない。本当に無邪気な笑顔だった。
その笑顔に少しだけ安堵する。
「変なこと想像してたでしょ?」
鬼頭は口の端に笑みを湛えた。
そっか……
まこが鬼頭を押し倒して見えたのは、僕の勘違いだったのか。
ほっとするのと同時に勝手な想像したことに、僕は急に恥ずかしくなった。
よく考えればまこには千夏さんがいるし、
鬼頭はまこのことを好きではない。
あんな風に艶かしい関係に発展するはずなんてないのに。