TENDRE POISON ~優しい毒~
いや、でも鬼頭はまことキスしたいか、と聞いているのだ。
まこ、とは……
「考えなかった……」
鬼頭は大きな目でじっとこちらを見ている。
探るような、視線だった。
僕は降参した。
「……ってのは嘘。したいと思うよ。ただ、その先までは本当に考えてない」
鬼頭は口の端をちょっと上げて笑った。
「ん。正直は宜しい」
って、何でこんな話してるんだろ、僕。
鬼頭の前では僕はいつでも丸裸同然だ。いつも気持ちを見透かされてる。
それと同時に、彼女には何でも話せる気がするんだ。
何でも。
鬼頭は再び箸を動かした。
目だけを伏せてちょっと微笑したまま口を開く。
「ちょっと気になるなって思うと、相手のこと知りたくなるじゃん。知ったら、好きになって、そうすると自分のほうを見て欲しくなる。
最初は見てるだけで良かったのに、気持ちだけがいつも先に行っちゃう。
欲望って果てしないよね」
その通りだ。と思った。
僕は最初まこのこと見てるだけで良かったんだ。ただ彼の視界に入るのが嬉しくて、意味もなく彼に会いに行ったんだっけ?
それがいつの間にか、膨れ上がって……
「ね。先生はあの保健医のどこが好きなの?」
唐突な質問だった。
僕は目をぱちぱちさせると、鬼頭を見た。
何の意図があってそんな質問したんだろう。でも鬼頭の顔からは何も読み取れなかった。
「どこって……どこだろう……」
鬼頭は顔を上げると吹き出した。
「なにそれ」
「そう言えば、僕最初はまこのこと大嫌いだったんだ」