TENDRE POISON ~優しい毒~

『……それって、あたしは振られたってこと?』


「……」僕は黙るしかなかった。


沈黙なんて卑怯だと思った。だけど、そうするしかできなかった。


『…だって水月くん付き合ってる人いないんでしょ?どうしてあたしはだめなの?』


僕は詰まった。


大人しそうなエマさんからこんな言葉が出るなんて。


僕はぐっとケータイを握った。


たっぷり時間をかけて含ませたあと、





「……好きな人がいる…」




と言った。



一瞬の沈黙。



エマさんが言葉を呑んだのが分かる。



僅かな沈黙のあと、しゃくりあげる声が聞こえた。


『好き……な人が…いるのに、あたしと寝たの?』





「ごめん」



僕はそう言うことしかできなかった。







< 263 / 494 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop