TENDRE POISON ~優しい毒~
教室に入ると、朝礼前の賑わっていた室内が一気にしんと静まり返った。
「鬼頭さんだ。よく来れるよね」
「でもあれは鬼頭のせいじゃないだろ?三年の先輩に絡まれたって」
「でも応戦したんでしょ?普通やらないよね」
ひそひそと噂話があちこちで聞こえる。
あたしは気にしない振りして、鞄を机に乱暴に置いた。
みんながびっくりしたように目をぱちぱちさせてる。
平気。
気にしない。
気にしてたら、復讐することなんて考えてられない。
こんなことで悩んでいたら前に進めない。
「鬼頭!気にするな」
あたしの頭を梶が軽くはたいた。
「別に……気にしてないよ」
ちょっと可愛げなかったかな?でも事実そうだもん。
梶は「へへっ!そうだよな」と軽く笑っただけだった。
梶は知らない。
あたしを突き動かすものが何か、なんて。
でも知らないほうがいい。
ホントのあたしを知ったら、梶はきっと幻滅する。
別に幻滅されるのが嫌だとかそういうのじゃない。
人間には誰でも激しい恋と同じように、同じだけ激しい憎悪の気持ちを抱けることを、彼にはまだ知ってほしくないだけ。