TENDRE POISON ~優しい毒~
今日一日神代と顔を合わせることはあっても、視線を合わせることはなかった。
前にもあったよね。こんなこと。
だけど、今日の神代は必死にあたしの方を見ないようにしてるって感じだ。
まぁあんなことあったあとだもん。無理もないよね。
そんなわけで今日一日は無事(?)終わることができた。
帰り支度をしていると、
「鬼頭。一緒に帰ろうぜ」と梶が声を掛けてきた。
あたしは筆記具なんかを鞄にしまいいれながら、
「ごめん。今日病院行かなきゃなんだ」と言った。
「病院?」
「ほら、傷の消毒に行かなきゃ」
あたしは制服の下に隠れてる傷跡を指し示した。
「あぁそっか。じゃぁ病院まで送るよ」
あたしは教科書を鞄に入れていた手をちょっと休めた。
「いいよ。恥ずかしいし」
梶は真っ赤になって頭を掻いた。
「そっか、そうだよな。わりっ!じゃ、また明日な」
何だかなぁ。
あたしは梶にどう接していいのか分かんなかった。いつもどおり、な筈なのに。
ちょっと冷たかったかな、とか、傷ついたかなとか考えるようになってる。
結局告白の返事も先延ばしにしてるし。
辛いだろうに、でも梶はめげずにいつもどおり接してくる。
悪い奴じゃないんだよね。むしろ優しい。
でも……
あたしは梶に恋してない。
そもそもあたしに恋なんてできるのだろうか。
好きになったら負け。
恋愛なんて所詮はゲームじゃん。そう思ってたのに、何でかな、最近は何故かその言葉がしっくりとこない。