TENDRE POISON ~優しい毒~

あたしは病室に足を踏み入れることなく、そっと室内の様子を伺った。


明良兄はこちらに背を向けて椅子に腰掛けてる。


乃亜姉の白い手を握って、明良兄の額の辺りに持ってきていた。


その広い背中が僅かに震えていた。





明良兄……



泣いてる……?





あたしは室内に入るのを躊躇った。


いつでも自信に満ち溢れてて、いい意味でも悪い意味でもまっすぐな明良兄が。


泣いてた。


声を押し殺して。




あたしの前では泣いたことなんて一度もなかったのに。


乃亜姉が自殺未遂をしたときでも、そうだ。


なのに今、明良兄は誰にも気づかれないようひっそりと涙を流してる。





まるで乃亜姉だけに、許された涙のようだった。





今は兄妹二人きりにしてあげよう。


たとえ血が繋がっていなくても、あなたたちは強い絆で結ばれてる。


そう思った矢先のことだった。









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