TENDRE POISON ~優しい毒~
「あら。楠さん……の妹さん?どうしたの?こんなところで」
カルテを持った女性看護士さんに声を掛けられた。
はきはきした看護士さんで、元気がいい。
だけど今はその元気を隠していてほしかった。
「雅?」
明良兄が病室からひょっこり顔を出した。明良兄はもう泣いてはいなかった。
でも、目のふちがまだ赤い。
あたしはそのことに気づかない振りして
「明良兄…来てたんだ。あたしも今来たところ」と手を振った。
外から病室の様子を覗いていたことは黙っておこう。
「俺もちょっと前に来たとこ。あ、今から検温ですか?」と言い明良兄は看護士さんを見た。
「ええ。それと点滴を変えにね」看護士さんはちょっと笑った。
白衣の天使とは言えないまでも愛嬌のある看護士さんだ。
いるだけで場が和む。
「じゃ、お願いします。俺たちちょっと売店に行ってるんで」
明良兄は何か言おうとしていたあたしを無理やり引っ張って廊下を歩き出した。