TENDRE POISON ~優しい毒~
「それを僕に?」
はっきり言って迷惑だった。花束なんてもらったってしょうがないし、第一もらったところでどうしようと言うのだ。
僕が手を差し出そうか、どうしようか迷っているとき、
「……いらねぇか」
とまこがぽつりと呟いた。
頭をうなだれて、首筋が露になっている。
その背中が妙に寂しそうで小さく見えた。
変なの。彼は僕よりずっと大きいし、男として堂々と頼りがいがありそうだったから。
「……もらうよ」
僕はまこの手から花束を受け取った。
まこが顔をあげる。
その表情が、どこかに感情を置き忘れてきたかのようにつるりと無表情だった。
いや、そう見えたのは最初だけで、次の瞬間まこは泣き出しそうに目のふちを赤くしたんだ。
メガネを取ると、
「わり」と言って大きな手のひらで両目を覆った。
僕は黙って隣に座って、何も聞かずにタバコを吹かせた。
このときは何も聞かなかった。
だけどまこが傷ついて疲れ切っていたのは分かったんだ。
まこに何があったのか、なんて知らない。だけどこのまま彼を独りになんてできなかった。
いつも自信に満ち溢れ、堂々としてて自分の信念を曲げない。そんな男が今は僕より頼りなげで小さく見える。
それと同時に彼に対する愛しさを覚えたんだ。
これは僕がまだ彼に恋してるという自覚がまだない頃の話。
あとから知った。彼はその日高校生から5年間付き合った彼女の誕生日に薔薇の花束をプレゼントする予定だったらしい。
だけど、その彼女はまこより10も歳上の男と結婚することを選んだ。
「信じられるか?この俺様が振られるなんて」てまこは笑いながら言っていたけど、本当はとても傷ついていたことを知っていたし、同時にとても彼女のことを愛していたことも知った。
それにやきもちを焼いた自分がいたことに、僕は随分戸惑ったものだ。