TENDRE POISON ~優しい毒~

「先生、今帰りですか?」


振り返ると、僕が受け持つクラスの楠 乃亜が鞄を両手で抱えて立っていた。


ふわふわの長い髪。白い肌。


可愛らしい顔立ち。


その背格好は鬼頭のそれと良く似ていた。二人並べるときっと姉妹みたいだな。





でも二人にははっきりとそれと違う雰囲気があった。


白と黒―――




光と影。そんな感じだ。



「帰りだけど。どうしたの?」


「じゃぁ途中まで一緒に」楠は笑った。鬼頭のそれとは違う。ひまわりのような明るい笑顔。


成績は優秀。真面目で友達の多い楠はクラスの生徒からも人気が高い。そんな楠は僕になついてくれた。



「先生……、恋ってしてます?」


並んで歩きながら唐突に楠が口にした。



「恋……?」


「先生は大人でかっこいいから、彼女いますよね」


「いや、残念ながら今はフリー」僕は苦笑いを漏らした。


楠は大きな目をまばたいた。


「先生が?意外。もてそうなのに」


「いやいや、ちっとも。楠はもてるでしょう?」


楠は曖昧にちょっと笑っただけだった。




「あたし……好きな人がいるの」





< 283 / 494 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop