TENDRE POISON ~優しい毒~
「先生、今帰りですか?」
振り返ると、僕が受け持つクラスの楠 乃亜が鞄を両手で抱えて立っていた。
ふわふわの長い髪。白い肌。
可愛らしい顔立ち。
その背格好は鬼頭のそれと良く似ていた。二人並べるときっと姉妹みたいだな。
でも二人にははっきりとそれと違う雰囲気があった。
白と黒―――
光と影。そんな感じだ。
「帰りだけど。どうしたの?」
「じゃぁ途中まで一緒に」楠は笑った。鬼頭のそれとは違う。ひまわりのような明るい笑顔。
成績は優秀。真面目で友達の多い楠はクラスの生徒からも人気が高い。そんな楠は僕になついてくれた。
「先生……、恋ってしてます?」
並んで歩きながら唐突に楠が口にした。
「恋……?」
「先生は大人でかっこいいから、彼女いますよね」
「いや、残念ながら今はフリー」僕は苦笑いを漏らした。
楠は大きな目をまばたいた。
「先生が?意外。もてそうなのに」
「いやいや、ちっとも。楠はもてるでしょう?」
楠は曖昧にちょっと笑っただけだった。
「あたし……好きな人がいるの」