TENDRE POISON ~優しい毒~
「……い。先生」
先生―――!
そう呼ばれて僕は目を開けた。
薄暗がりの中に鬼頭の顔がぼんやりと浮かんでいる。心配そうに眉を寄せていた。
嗅ぎ慣れたタンドゥルプアゾンの香りが心地いい。
夢じゃない。等身大の鬼頭だ。
「……鬼頭…?」
「どうしたの?うなされてたよ」
「うなされてた?」
僕は自分の手のひらをじっと見つめた。
その手のひらを鬼頭がやんわりと握ってきた。冷たくて白い指先。
「今……何時?」
掠れる声を出して僕は両手で顔を覆った。
「明け方の5時」
5時……か。ソファに横になって一時間も経っていない。
最近特に眠りが浅い。不眠が続いてる。
まこにもらった薬を飲んでも、だ。
「ごめん、起こしちゃったね」
「別に起こされたわけじゃないよ。喉渇いたから水飲みにきただけ」
「そっか…」僕はちょっと微笑んだ。
「もう少し寝たら?」
「うーん。このまま起きる。寝れそうにないから」僕は顔から手をどけた。
鬼頭がちょっと微笑んで、
「そ?」と答えた。
夢で見た―――あの綺麗な笑顔だった。