TENDRE POISON ~優しい毒~
僕は首をゆるゆると振った。
「付き合ってないよ」
「じゃぁ片思い?長いの?」
僕は目をちょっと細めてカップをソーサーに戻した。
「はっきりと気づいたのは一年ほど前かな?長いっていうのかな」
「一年も片思い……長いね。告白しないの?」
エマさんの質問に僕は答えることができなかった。
告えるはずがない。
告ったら最後だ。まこは、僕の前から永遠にいなくなってしまう。
こんな質問、普通なら答える気がしなかったのに、エマさんには伝えるべきだ、と思った。
彼女は知りたがっている。当然のことだ。
「告白は……しない。相手を苦しめるだけだから」
エマさんは目だけを上に向けた。
「やっぱり…水月くんは優しいよ。でも水月くんは?ずっと片思いなの?そんなの幸せになれないよ?」
幸せ……か。
僕は、まこを好きと自覚した時点で自分自身の幸せを求めることを放棄したも同然だ。
僕がどんな顔をしていたのだろう。
エマさんは、カップの取っ手をちょっと指でいじると、
「人に言えない関係なの?相手が結婚してる……とか…」
と言いにくそうに口でもごもごと呟いた。