TENDRE POISON ~優しい毒~
エマさんは最初何を言われたのか分からない、という感じで目をぱちぱちさせていた。
「え?ちょっと待って……水月くんは…男の人が好きってこと?」
「いや、違う。……僕はストレートだ。でも…結果的にまこを好きだから、そうとは言わないのか」
エマさんは何か奇異なものを見る目つきで目を細めた。
気まずい沈黙が降りてきた。
エマさんはしきりと僕とティーカップの間に視線をいったりきたりしている。
そこに何があるというわけでもないのに。
「……ごめん」
僕は小さな声で謝った。
謝ることしかできなかった。
エマさんは困惑したように、まだ眉を寄せている。
やがて、深く深呼吸して目を閉じると、すっと目を開けてこちらを見据えた。
何か言いたそうに口を開きかけたが、結局彼女の口から何かを告げることはなかった。
黙って、席を立つと小ぶりのバッグから財布を取り出し、500円玉を一枚取り出し、テーブルに置いた。
「これ以上話すことなんてないわ」
彼女の抜け落ちた表情がそう語っていた。
エマさんは無言で立ち去っていた。
ミルクティは一度も口につけられることなく、まるで置き去りにされた彼女の気持ちと同じように冷め切っているだろう。
テーブルの上では薔薇の花が場違いなほど、美しく咲き誇っていた。