TENDRE POISON ~優しい毒~
明良兄と電話を切った後、あたしはリビングのテーブルに無造作に放ってある黒いケータイに手を伸ばした。
恐る恐る開く手が僅かに震えていた。
あたし……なにをこんなにビビッてんだろう。
でも一度、進んでしまった手は止まることはなかった。
電話がかかってきた日付と時間帯はしっかり記憶している。
着信は少なかった。
着信:12月5日 19:32 “実家”
着信:12月5日 21:17 “まこ”
着信:12月6日 12:34 “時田 琢磨”……これは友人だろうか。
次の一行を見てあたしは手を止めた。
着信:12月6日 21:35 “エマさん”
“エマさん”……
これだ!
神代はこの電話のとき、あたしの目を憚るように寝室に行った。
何か酷くいけないことをしているような、後ろめたい後姿だった。
カタン。
物音がして、あたしは慌ててケータイを閉じた。
“エマさん”
この女が神代を悩ませてることが分かった―――