TENDRE POISON ~優しい毒~
濃いグレーのジャージ姿で髪がぼさぼさの男が階段を降りてくる。
どこか梶と面影が似ていた。
「兄貴、寝起きかよ。頼むから顔ぐらい洗ってきてくれ」
寝起きって、もう昼近くですけど。
「わーってるって」めんどくさそうに欠伸をした梶のお兄さんとばっちり目が合ってしまった。
「え?優輝の連れって女!?」
お兄さんは目を丸くすると、慌てて階段を昇っていった。
なんだあれ?
「ったく。ごめんな。騒がしくて」
「ううん。賑やかでいいね」あたしはちょっと笑った。
これはホントの意見。あたしんちはいつもあたし一人だったから。
明良兄ちゃんとはあんまり接触できないし、乃亜姉ちゃんは―――あたしの知らない遠いところに行こうとしている。
「可愛い子ね。まるでお人形みたい」
「ねぇ、優輝の彼女?だったらこいつやめて俺にしない?」
「何言ってんだよ、兄貴!」
絵に描いたような広いリビングで梶とお母さんと私服に着替えたお兄さんがあたしの持ってきたプリンを食べながら、あたしをじっと見る。
あたしは苦笑いを漏らした。
そんなに見られたらプリン食べられないんですけど。
「あたしは梶……優輝くんの友達です。恋人どうしってわけじゃ…」
「ふぅん。じゃ、優輝の片思いなんだ」
お兄さんはちょっと意味深ににやりと笑みを漏らすと、頬杖をついた。