TENDRE POISON ~優しい毒~
「なに?急に」
一瞬ドキリとしたけど、あたしはなるべく平然としてその手から逃れるように指をずらそうとした。
だけど、梶の手がそれを阻む。
強い力。あたしがいくらもがいてもびくりともしない。
あたしはすぐ横に並んだ梶の横顔を見た。真剣な……表情だった。
「梶…ドア……開いてるよ?」
「知ってる。閉まってたらいいのかよ」梶の声がいつもより低くなる。
「そういう意味じゃないよ。手……」
梶の手に一層力が入った。痛いぐらいだ。
あたしが眉をしかめた。
「卑怯だよ」唐突に梶が口を開いた。
え?
「だって今日の鬼頭、可愛すぎるんだもん。……卑怯だよ」
梶の手が緩んだ。その隙にあたしが梶の手から逃れるように手を離そうとしたら、梶の手があたしの腕を掴んで、強く引き寄せた。
もちろん、怪我をしていない方のだけどね。
あたしはバランスを崩して梶の胸に顔をぶつけた。
「ったー」
「好きな子と部屋で二人きりになって、何もしたくない男っていると思うか?」
梶の声が一段と低くなった。