TENDRE POISON ~優しい毒~

「帰る」


短く言うとあたしはテーブルの上の教科書やらノートを片付けた。


「鬼頭……?ごめん、怒った?」


いつになくしおらしくうなだれた梶が心配そうにあたしを見た。


「ううん。これ以上一緒にいたら、梶に申し訳ないから」


「それって俺の気持ちには応えられないってこと?」


「違うよ」


あたしは鞄に教科書を詰める手を休めた。


「分からないから。あたしはまだ恋愛が何なのかその答えがわかってないから」


あたしは梶のようにまっすぐに誰かを思うことができない。


かと言って明良兄のように気軽にもなれない。


乃亜のように、誰かを想って死を選ぶ気持ちも分からない。




神代のように―――



身がよじれるほどに苦しい思いをしたことも……ないから。




―――


あたしが帰ることを梶は引き止めなかった。


「バス停まで送るよ」


「いいよ。近くだし」


これ以上梶に甘えるわけにはいかない。


「あれ?雅ちゃん、帰っちゃうの?」


お兄さんがリビングからひょいと顔を出した。







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