TENDRE POISON ~優しい毒~


「ねぇ、雅ちゃん。付き合ってる奴いるの?」


お兄さんは唐突に聞いてきた。


「いません」あたしは短く答えた。


「いいね~。はっきりした子。俺好きよ?」


「はぁ」


「付き合ってない奴がいないんなら、俺と付き合ってよ」


は?


「何言ってるんですか?意味わかんない」


「意味なんて追求してたら恋愛なんてできないよ」


お兄さんはにっと口角をあげて笑った。笑い方が梶に似てる。


「お兄さんはあたしのこと好きなんですか?今日あったばかりなのに」


あたしの問いにお兄さんは「ん~」とうなった。


「好きとかじゃないかも。ただ、俺の好みの顔してるんだよね。ついでに言うと声も。優輝と俺好みの女のタイプも似てるみたい」


あたしは目を細めた。


「ばっかみたい。そんなんで簡単に付き合うとか言う?」


梶のお兄さんということを忘れてあたしは思わず本音をぶつけた。


「いいねぇ。気が強いとこも結構好き♪それに恋愛に時間なんて必要なくない?顔が好きってのも立派な理由になると思うけどね」


あたしは冷めた目でお兄さんを見上げた。


お兄さんの言ってることは理解できない。



「好きなことに大義名分が必要なの?」


大義名分…随分な物言いだ。


あたしはいつでも物の存在する意義や理由を考える。


それは恋愛感情だって同じ。


一時の感情だけで、流されるのがバカらしいと思ってるから。


だけど、人には目に見えない何か強い感情で人に惹かれる瞬間がある。


まるで引力のように。




そういう意味ではお兄さんの言ってることは一部で正しいのかもしれない。







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