TENDRE POISON ~優しい毒~
◆午後5時のDVD◆
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エマさんが立ち去っていってしばらく僕は一人でコーヒーを飲んだ。
コーヒーはすっかり冷めてまずくなっていた。
コーヒーを飲み干すと僕は伝票を手に席を立った。
エマさんが置いていった500円玉の感触は妙に冷たく感じた。
彼女の感情を現しているようで、いたたまれない。
いや、僕が彼女に抱く感情かもしれない。
何だか妙に心が冷え切っていた。
何をする気もなく、何も考えたくなかった。
どこへ行くとか考えてなかったけど、駅前の大きなビデオショップがふいに視界に飛び込んできた。
こんなときは、“あれ”しかないな。
僕はふらりとビデオショップに向かった。
マンションに帰ると、いつもは走って出迎えてくれるゆずが今日は出迎えてくれなかった。
泣き声もしない。
ゆずにまで嫌われたかと、しんみりした面持ちでリビングの扉を開けると、
毛足の長いラグの上で鬼頭が倒れるように眠っていた。
鬼頭……帰ってたのか。
ゆずも鬼頭の腕の中で心地良さそうに寝息を立てている。
どうりで走ってこないと思った。
最近ではゆずは僕より鬼頭の方になついている。餌をやったり散歩に行かせたりしてるのは僕なのに。
鬼頭は長い足を投げ出して、うつぶせになって眠っていた。
長い髪はほどいてあって、ラグの上に美しい滝のように流れていた。
綺麗だった。
僕の知るどんな女の人よりも、その美しさが際立っていた。