TENDRE POISON ~優しい毒~

それから40分ぐらい立って鬼頭はバスルームから上がってきた。


上気したピンク色の頬から湯気があがっている。


首からタオルをかけて鬼頭は顔を拭っている。


「先生の使ってるシャンプーっていい香りするね。見たことないパッケージだったけど」


「あぁあれね。アメリカにいる姉貴が送って来るんだよ。外国製のだよ」


鬼頭は顔を拭く手を止めた。


「お姉さん?二人きょうだい?」


「うん、そうだよ」


「へぇ意外。一人っ子だと勝手に想像してた」


「なんだよ、それ」僕はちょっと笑った。「鬼頭のとこは?きょうだいいる?」


「あたしは……」と言って鬼頭はちょっと言葉を詰まらせた。


何か言いたくなさそうなそれ以上は聞いて欲しくなさそうな、複雑な表情だった。



僕は場を和ませようと、わざと明るい口調で口を開いた。


「昔はよく姉貴に苛められたな。顔を合わせると未だにこき使われる」


「あぁそれっぽい」


鬼頭も笑った。タオルを首から抜き取って僕の隣に腰掛ける。


「そう言えばあたし先生のことよく知らなかった」


今更のように鬼頭が呟いた。


「僕だって鬼頭のことあまり知らないよ。君は何だか秘密が多そうで―――ミステリアスだ」


僕の言葉に鬼頭はちょっと笑って、流れるような視線で目をあげた。


「一つ一つ知っていくのが恋愛の醍醐味じゃない?って言っても、先生はあたしに恋愛感情なんてないけど」


鬼頭には―――



恋愛感情を抱いていない……



ってはっきり言えるのだろうか。


僕はまだ自分の知らないところで彼女に惹かれている部分がある。



気づいているはずなのに、僕はそ感情に背を向けてる。



それは僕がまこに抱く感情とはまた違う種類のものだ。



きっと―――





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