TENDRE POISON ~優しい毒~
映画も半ばまで行くと、鬼頭は唐突に
「ちょっと止めて」と言い、立ち上がった。
僕は言われたとおり、一時停止のボタンを押す。
廊下に向かおうとする鬼頭に、
「トイレ?」と聞いた。
「違うよ。ドキドキしすぎて、喉渇いちゃったの」鬼頭は唇を尖らせている。
鬼頭はすぐに500mlのミネラルウォーターを手に帰ってきた。
ペットボトルに直に口つけて、おいしそうに水を飲んだ。
白い喉元が上下するのを見て、それがすごく色っぽいと思った。
こんなこと考えるなんて!
慌てて目を逸らし、
「でも意外だ。鬼頭にも苦手なものがあるんだね」と会話も逸らした。
「そりゃそうだ。だって人間だもん」鬼頭はちょっと肩をすくめて見せる。
「でもホラー映画は苦手じゃないよ。怖いもの見たさってやつ」
「先生は、ある?苦手なもの」
「姉貴」僕はため息を吐きながら即答した。
鬼頭は声をあげて笑った。
そう言えば鬼頭は前に比べてよく笑うようになった。
笑うだけじゃない。ちょっと拗ねたり、怒ったり、随分とこれぐらいの年頃の少女が持つ当たり前の表情をするようになった。
前は……
周りのものを全て遮断するような、人を寄せ付けないところがあったから。