TENDRE POISON ~優しい毒~
「はい」
あたしは相手が誰か確認することもなく扉を開けた。
ここに来る人間なんて保健医ぐらいだと思ったから。
だけど、玄関前に立っていたのは、びっくりしたように目を見開いた見知らぬ女だった。
白いコートにチョコレート色のマフラー。バッグもブーツもその色で統一してある。
神代と同じ年頃だろうか、上品で大人しそうな女だった。
嫌な予感がした。
「あ。あのここ…神代さんの家ですよね」
女がおずおずと聞いてきた。
「そうですけど」
「あの、あなた……そう言えばこの間カラオケにいた……」
カラオケ?
いつのことだろう。
でもそんなことどうでもいいや。
「彼に何のようですか?」
「あなた水月くんの……何?」
女が眉を寄せて訝しげにあたしを見る。見ようによっちゃ睨んでいるようにも見えた。
「水月くんの、妹さん?」
水月くん……
馴れ馴れしい呼び方。
あんたこそあいつの何なのよ。
あたしは壁に背をもたれさせて、腕を組んだ。
「お兄ちゃんなら今寝てますけど」
あたしが答えると女は目に見えてほっと安堵した。