TENDRE POISON ~優しい毒~
「何でエマちゃんが出てくるんだ?お前あの子と何かあった?」
「彼女と……寝た」
まこはちょっとびっくりしたように、目を見開いた。
「それはまぁ……何というか。で?付き合うのか?」
なんて答えていいのか分からないという感じで当たり前の返事が返ってきた。
僕は静かに首を横に振った。
「何で……」と言いかけたところを、
「好きな人がいる」と僕は思いのほか大きくてしっかりした言葉をかぶせた。
僕の発言にまたまこは驚いたようだ。ちょっと目をみはると、ごくりと喉を鳴らした。
「何だよ、全然知らなかったぜ。お前そんなそぶり少しも見せなかったし。それでエマちゃんを振ったのか?」
まこは別に怒ってるという風でも、呆れているというのでもなかった。
ただ、淡々としていた。
ちょっと拍子抜けした。
「僕のこと軽蔑しないの?好きな人がいるのに、他の女の人とセックスなんて」
「軽蔑?そんなんでするかよ。エマちゃんは可哀想だけど、お互い大人なんだしその辺は割り切るだろう。
でも、なるほどねぇ、それで鬼頭が怒って出ていっちまったってわけか」
妙に納得したようにまこが頷いた。
そして何か難しいことを考えるように、頭を乱暴にがしがしとかく。
「まぁあれぐらいの年頃って難しいからなぁ。経験だって浅いし、考え方だってずっと幼いから」
そう、確かに僕にもそういう時代があった。
まだ、大人の世界がこんなにも薄汚れてなくてキラキラしたものだと信じてた頃が。