TENDRE POISON ~優しい毒~
「水月」
ふいに名前を呼ばれたけど、僕は顔をそちらに顔を向けることができなかった。
「水月、こっち向けよ」
ふいにまこの両腕が伸びてきて、僕の両頬を温かい手のひらが包んだ。
そのまま、まこの方へと顔を向かされる。
まこは切れ長の瞳を細めていた。
その瞳の奥が切なげに揺れていた、ように見えた。
「ごめんな、気づかなくって」
まこはそう言うと、僕の額にちゅっと音を立ててキスをした。
柔らかい唇の感触。
僕は目を見開いた。
心臓が―――止まるかと、思った。
唇を離すと、まこは僕の顔を覗き込んだ。
「俺は、お前を親友にしか見れない。でも親友としては、俺も大好きだ。
ごめんな。気持ちに応えられくて」
僕は開いていた目をゆっくりとまばたきして目尻に溜まった涙を流さないよう、必死に泣きたいのをこらえた。
「ありがとう。それだけで充分だよ」
ありがとう、まこ。
ようやく、僕の気持ちは鎖を外されて、自由に飛び立つことができた。
苦い後悔と、甘い恋心をようやく開放できた。
鬼頭、エマさん……僕は少しは許されただろうか。
神は何も答えてはくれなかった。