TENDRE POISON ~優しい毒~
◆午後8時の写真◆
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「ほれ、お前の荷物だ。水月がお前にって。落ち着いたらいつでもいいから戻って来いって言ってたぞ」
そう言ってボストンバッグを手渡されたのが、日曜日の朝だった。
やることがないから何となく朝放映してるアニメ番組をぼんやり見てたら、保健医がソファからむくりと起きだして早々に言った。
「……ありがと。コーヒーでも飲む?」
「ん?あぁ。じゃ、頼むわ」
保健医の部屋はダイニングキッチンとリビングルームがくっついていた。
だからあたしがキッチンでコーヒーを作ってるところが保健医の座ってるソファから丸見えだ。
保健医はあたしが手際よくコーヒーを作る様をじっと見ていた。
「なぁお前、あいつに好きな奴がいるって知ってた?」
あたしはコーヒーメーカーのポットをセットする手を止めた。
少し悩んだ末、
「……うん」と短く答えた。
「そっか……、俺だけ知らなかったわけだ……」
保健医はソファの背もたれに腕を置いて、その上に頭を乗せた。
神代と何かあったのかな?今日の保健医、ちょっと変。
「そんなにショック?知らなかったことが」
「いや。……まぁショックっていやぁショックだな。誰よりも近くにいた自信があったし」
「ひとは他人のこと全て知るなんて無理だよ。どんなに仲がよくても、どんなに近くでも。
他人を全部知ることなんて不可能だ」
あたしだって神代の心のうちを知らない。
あんなに近くにいたのに。