TENDRE POISON ~優しい毒~
同じことで乃亜姉や明良兄のこともそうだ。
あたしは彼女らの本当の気持ちを知らない。
何を思って、どうしたいのか。本当のことなんて知る由もない。
人間ってめんどくさい。
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あたしは午前中に着替えを済ませると、保健医と千夏さんに出かけると言ってマンションを出た。
二人は口には出さなかったけど、心配してたみたい。
「いいか?夜までには絶対帰って来いよ。門限9時だ。分かったな!」
しつこいぐらい念押しされて、あたしが何とかマンションを出ると駅に向かった。
電車で一本、2駅ぐらいのところにあたしんちがある。
楠家もだ。
あたしは実家を素通りして隣の楠家のインターホンを押した。
「はい、どちら様?」
扉を開けてくれたのは、明良兄と乃亜姉二人のお母さん。
おばちゃん、ずいぶん見ないうちに一段と小さくなったみたい。
無理もないか。乃亜姉があんなふうになっちゃったんだもんね。
今年は明良兄も受験だし、疲れ切っているのが分かった。
でも
「あらあら、雅ちゃんお久しぶりねぇ。元気してた?」
乃亜姉と同じ笑い方で、同じ温かい笑顔であたしを迎えてくれた。