TENDRE POISON ~優しい毒~
鬼頭は耳にヘッドホンをかけ、何か本を読みながら歩いてくる。
集中してるのか、僕の姿に気づかない。
それでも足取りはしっかりしていた。
器用な子だ。
「……鬼頭」
彼女の前で僕は足を止め、遠慮がちに声を掛けた。
鬼頭はびっくりしたように、顔をあげて僕だと分かると更に驚いたように目を開いた。
慌ててヘッドホンを離す。
「……おはよう」
「…おはようございます……じゃ」
短く言うと、すぐに僕に背を向ける。
ひどく慌ててるみたいで、忙しなく僕から視線を逸らす。
すれ違う様に、芳しいタンドゥルプアゾンが香ってくる。
1日嗅いでなかっただけなのに、随分久しぶりな気がする。
「待って!」
僕は鬼頭の背中に向かって大声を出した。
鬼頭が立ち止まる。