TENDRE POISON ~優しい毒~
「……何か?」
鬼頭が振り返る。
まだ怒ってるのだろうか、言葉に棘を感じた。
「……ごめん、引き止めて。…その、僕……」
はっきりと言い出さない僕に鬼頭は苛々したように眉を吊り上げている。
「弁解ならいいですよ。あたし、急いでるんで」
鬼頭は冷たく言うと、さっと踵を返した。
「待って!」
僕が乱暴に鬼頭の腕を掴んだので、ヘッドホンと参考書が廊下の床に落ちた。
鬼頭が眉を寄せて、こちらを見上げた。
怒ってる……
風ではなかった。どちらかというと酷く困惑してる。そんな表情だった。
「僕、言ったから。
まこに、自分の気持ちを伝えたから」