TENDRE POISON ~優しい毒~
「こっちへ来なさい」
僕は珍しく大きな声で彼女を呼んだ。
鬼頭は、少しだけ梶田のお兄さんと僕とを見比べるように視線をめぐらせると、さっと僕の元へ走ってきた。
僕の後ろに隠れるように身を隠す。
「君も、ここは学校の関係者以外立ち入り禁止だ。これ以上うちの生徒にちょっかいかけると、警察を呼ぶことになるよ」
梶田のお兄さんはチっと小さく舌打ちしてGT-Rを発車させた。
ヴォォオと派手なエンジン音が遠ざかっていく。
「大丈夫?」
僕は後ろに隠れている鬼頭をちょっと伺った。
「ん。大丈夫。ありがと。しつこくって」
「いいよ。もう少し校内に居たほうがいいかもしれないね」
「うん。ホントにありがとう。先生、ちょっと男らしくてかっこよかったよ。あんな風に怒れるんだね」
ドキンと僕の心臓がまた派手な音を立てた。
でも、僕はこの心臓の高鳴りを無視するように早口に言った。
「早く戻りなさい」
鬼頭が行ってしまうと、僕は校舎のあたりをぐるりと見渡した。
ここは、学校内の全てが見渡せる。
保健室のあたりの窓から、まこが顔を覗かせていた。
校舎の3階から楠 明良もこちらの様子を伺っている。
1階廊下からは、梶田もこっちを見ていた。
三者、三様……だと思ったけど、三人とも何故か含みのある視線で、こちらを睨んでいるような気がしたのは
気のせいだろうか。