TENDRE POISON ~優しい毒~
私服に着替えた神代と一階の駐車場に。
神代の今日の服装は、グレーのカットソーにブラックデニム。ジャケットは黒で、首からシルバーのアクセがぶら下がっている。
悔しいけど、かっこいいじゃん。
車に乗り込んだ神代が、
「あ、しまった。これ、まこに借りっぱなしだった」
と言ってシルバーのジッポライターを手にした。
「ついでだから返しに行っていい?」
「え?うん。いいけど、わざわざ今から?」
「7万もするライターなんだ。無くなって今頃騒いでるかも」
悪戯っぽく笑った顔にきゅっと心臓が縮まる。
可愛い。
その笑顔に免じて。
「いいよ。返しに行こう」って言ってしまった。
このときの言葉をあたしはあとになって後悔することになる。
そんなこと言わなきゃ良かったって―――
―――
車で15分で保健医のマンションに到着した。
「車で待ってればいいのに。外は寒いよ」
一緒に車から出たあたしに神代が言う。
「ううん。いいの」
一緒にいたいの。少しでも長く……
そんなことを考えてたら、エントランスから保健医が出てきた。
コートを着た千夏さんの背中も見える。