TENDRE POISON ~優しい毒~
「あ、ま……」
と神代は声を掛けようとしたとき、こちらに気づいていない保健医は、
千夏さんの肩に腕を回して彼女を引き寄せた。
そのまま強引かと思われる仕草で、千夏さんにキスをする。
キス……
隣の神代をそっと伺ったら、彼は振り上げた手を行き場のない手を宙ぶらりんにしてただ、ぼんやりとその様子を見ていた。
「先生……」
あたしはそっと神代に問いかけた。
ほとんど消えてしまう程の小さな声で。
「せんせ……」
もう一度問いかけてみると、神代の形の良い目から涙が一粒零れ落ちた。
先生―――
泣いてる……?
声もなく、表情を崩すこともない。ただ静かに一筋の涙だけを。
流していた。
男の人の涙を見るのは初めてだった。
でもきっと、こんなに綺麗に泣く男の人はこの人だけだろう……
好きな人が自分を見てくれない。
その気持ちが痛いほど分かる。
胸にいばらが刺さったように、ずきずきと……
痛いよ。
あたしもいつの間にか涙を流していた。
それがこんなにも悲しくて寂しいことだなんて思わなかったよ。
あたしは神代の下がった冷たい手に自分の手を伸ばしそっと握った。
神代はそっとあたしの手を握り返してきた。
その手は思いのほか温かくぬくもりを感じた―――
大丈夫、あなたの好きな人があなたを見ていなくても、
あたしはあなたのことずっと見てるから……
ずっと……
そんな思いを込めて、あたしは神代の指に自分の指を絡めた。