TENDRE POISON ~優しい毒~
◆午前1時の海◆
◆◆◆◆◆◆◆◆
鬼頭が居てくれて良かった。
彼女の存在が僕にとって大きな救いだった。
それどころか、誰かの前で思いきり涙を流したせいかな、気持ちがすっきりとして妙に清々しかった。
彼女は慰めの言葉も励ましの言葉も僕には言わなかった。
ただ黙って僕の悲しみを受け止めてくれた。
決定的な失恋だったけど、もやもやした何かに区切りがついた。
「~♪」
さっきから鬼頭はアップテンポの曲ばかりを選曲して歌っている。
それも僕が好きなあゆばかりだ。
可愛い生徒だから、とか贔屓目ではなくて、鬼頭は歌が結構上手だ。
曲を歌い終えた鬼頭が顔を高揚させて、僕の隣に座った。
「やっぱあゆはいいよね。元気になれるから」
「やっぱいいね。女の子が歌うと」
僕は笑った。
すると鬼頭は眉を寄せて、
「え?先生、あゆを歌うことってあるの?」
「僕は歌わないけど、たまに連れとかでいるよ。歌うやつ」
「へ~、男の人が歌うとどんな風になるんだろうね?」
「結構いいよ。低音風にアレンジして、変じゃないよ」
「へぇ、一度聞いてみたいな」
「じゃあ今度そいつも呼んでみる?」
「うん」
鬼頭が膝の上で頬杖をついて微笑んだ。
綺麗な笑顔。
僕は鬼頭の笑顔が大好きだ。
「いや、やっぱやめよう」
「え~、何で?」と鬼頭は唇を尖らせてる。
だって、鬼頭を誰か他の男に見せるなんてもったいないから。