TENDRE POISON ~優しい毒~
僕たちは車で1時間のところのカラオケボックスまで来ていた。
近くだと誰かに遭遇する恐れがあったから。
「どうする?もう5時だけど。帰ったらちょうど晩御飯の時間だし」
と言いつつも、本当はこのまま二人でいたかった。
家でも二人きりには違いないが、ここでは誰も僕たちの関係を知る者はいない。
もう少しだけ……
鬼頭と二人、この場所にいたかった。
「あたし、まだどっか行きたいな」
鬼頭が名残惜しそうにしゅんとして言った。
「え……?」
「って無理だよね。ゆずもいるし」
「いいよ。行こう。僕もまだ帰りたくなかったんだ」
僕の言葉に鬼頭は目をぱちぱちさせて、ちょっとの間黙ったが、すぐに
「なにそれ。普通、女の人が恋人に言う台詞でしょ?」と笑った。
「そ、そうかな……」
僕は顔が赤くなるのを感じた。