TENDRE POISON ~優しい毒~

さすがにもう帰らなきゃな……


魔法は解ける。帰ったら、いつもどおり教師と生徒の間柄に戻る。


まるでシンデレラの気分だ。



名残惜しそうに窓の外を眺めていると、


「ねぇ先生。最後のわがまま聞いて?」


鬼頭がぽつりと呟いた。


寂しそうな、名残惜しそうな笑顔だった。


「―――いいよ」


「海行きたい……いつか好きな人ができたら行きたいって思ってたんだ」




僕は無言で頷くと車をユーターンさせた。



海までの道のりは遠くはなかった。


標識で海岸の表示が出てくるとあとは道なりにまっすぐ。


平坦な道だった。


その道すがら、鬼頭は黙りこくってじっと前を向いていた。



何を考えてるのかな……


気になったけど聞かずにいた。


鬼頭は元々テンションが低い子だったし、沈黙が苦ではないらしい。




僕も随分慣れたものだ。


以前は鬼頭と二人きりで沈黙が続くと、何を話していいのやら一人あたふたしてたけど。


でも僕は彼女のこうゆう静かな空気が好きだった。



彼女の纏うこの独特な空気が―――



好きだった。













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