TENDRE POISON ~優しい毒~
この名前をきれいだとほめてくれた女の子はたくさんいた。
「水月にぴったりだね」
みんな口々に言った。
何がぴったりなんだ?
みんな本当の意味なんて知らないのに。
だから鬼頭の言葉はとてもリアルに聞こえたんだ。
本当の意味で褒めてくれたのは鬼頭だけだ。
僕は鬼頭の手をそっと触れた。
驚くほど冷たく冷え切っていた。
鬼頭はびっくりしたようにちょっと目をぱちぱちさせたけど、すぐにはにかむように微笑んだ。
僕もその顔に微笑み返し、鬼頭を引き寄せた。
バシャッと水が跳ねる音がして、鬼頭が僕の胸の中に納まる。
抱きしめたことなんて、これがはじめてではないのに。
彼女は思ったよりずっと華奢で柔らかかった。
「先生……?」
鬼頭が僕の腕の中で顔をあげる。
どうしたの?と目が語っていた。
遠くで波がザザっと大きな音を立てていた。
風が水面を滑るように吹いている。
「鬼頭……君が……」
好……と言いかけて、
「せ、先生!!」
鬼頭が目を見開いて、僕のコートを掴んだ。
一段と大きな波音が聞こえて、横を見ると
波がまるで津波のように押し寄せてすぐそこまで来ていた。