TENDRE POISON ~優しい毒~
ひどい津波だった。
波にさらわれたり、溺れることはなかったけど、僕らは二人揃って頭から海水を被る羽目になった。
誤って海水を飲み込んでしまった。
喉の奥で塩っからい味を感じて、僕は激しく咳き込んだ。
隣で鬼頭も同じように咳をしている。
「鬼頭。大丈夫か?」
「うん。先生も……」
と言って鬼頭はぷっと吹き出した。
「二人ともずぶ濡れ。ひどいかっこ」
「そうだね」
髪も服もドロドロ。鬼頭なんて可哀想にせっかくのワンピース風の服が半分ぐらい灰色になっている。
せっかく気持ちを告白しようとしていたのに、何てタイミングが悪いんだろう。
いや、逆にタイミングが良かったのかもしれない。
まこに振られたばっかりで、すぐに鬼頭に行くなんて僕もどうかしてる。
でも隣でくすくす無邪気に笑っている鬼頭を見ると、どうしても心臓がキュっとなる。
この痛みに近い感触は、ひどく甘くて切ない。
「どうしよう、このまま車に乗るわけには行かないよね?」
鬼頭はちらりと車の方を見やった。
「そうだね。どこかで乾かしてくか」
「乾かすってどこで?」
「う~ん」僕が考えてると、
「あ、あそこ!明かりついてる。どうだろ?」
鬼頭が指指したのは海岸沿いにあるカフェみたいな造りの白い建物だった。
アーチ状の屋根からオレンジ色の光を放ったランプが風に揺れている。