TENDRE POISON ~優しい毒~
白い建物はカフェでも民家でもなかった。
「“ペンション シーサイド”って書いてある」
鬼頭が白樺でできた洒落た立て看板を読み上げた。
「あ~、でもペンションって泊まるとこだよね?他いこっか」
と鬼頭がくるりと建物に背を向ける。
僕は無言でその腕を引っ張った。
「先生?」
鬼頭が首をかしげた。
「泊まっていこう……
って何言ってるんだろうね、僕は」
僕は乱暴に頭をかいた。
ホントに何やってるんだか。
若い頃……それこそ鬼頭ぐらいの歳だったら迷わず言っていた言葉なのに、今は厄介なことに分別も常識も備えた大人になってる。
いや、正直に言おう。
臆病になってるんだ。
歳をとった分だけ……