TENDRE POISON ~優しい毒~
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「おさき」
用意されたバスローブに着替えて、あたしが濡れた髪をバスタオルで拭きながらバスルームから出てくると、
神代は立ったままタバコを吹かして、窓の外をぼんやり眺めていた。
男の人にしては少し華奢な背中。だけど軟弱に見えないのが不思議だ。
その背中が妙に寂しそうに見えた。
神代はあたしの言葉に軽く首を振って頷いただけだ。
やっぱりこっちを見ようとしない。
「先生?」
「ん?」
あたしは振り返ろうとしない神代の背中に問いかけた。
「何か怒ってる?
もしかしてあたしが勝手に泊まるって言っちゃったから。ゆずの心配でもしてる?」
ここで初めて神代が顔だけをちょっと後ろに向けた。
「いや。ゆずの心配はしてるけど、一日ぐらい大丈夫だよ。
それに怒ってない」
「うそ。怒ってるよ」
あたしはバスローブの裾をぎゅっと握った。
「怒ってないって……」
「じゃぁ何であたしの方を見ようとしないの?」
たまりかねてあたしは神代の腕に手を伸ばし袖を掴んだ。
こんなのやだよ。
せっかく二人きりなのに。
せっかくのデートなのに。