TENDRE POISON ~優しい毒~
「こっち見てよ」
あたしを見てよ。
あたしは額を神代の腕にくっつけた。
「鬼頭……」
神代は驚いたように、目を開いてあたしを見下ろしている。
琥珀色をした瞳が動揺しているのか揺れていた。
「鬼頭、離しなさい」
神代がやんわりとあたしを引き剥がそうと、あたしの腕に触れた。
「やだ!じゃぁこっち見てよ」
子供じみたことをしてると思った。こんなのただの我侭だ。
だけど、どうしてもあたしを見て欲しかったんだ。
神代に無視されるなんて、今のあたしには絶えられないことだったから。
「―――っつ!」
神代は眉を寄せてひどく苦しそうに顔を歪めた。
何が彼をこんな風に苦しめるのだろう。
何が彼をこんな顔させるのだろう。
そんな顔しないで。
そんな切ない目であたしを見ないで。
そう思ってあたしは思わず神代の袖を掴んでいた手に力を入れていた。
神代は「ちょっとごめん。タバコ」と言って根元まで灰で白くなったタバコを灰皿に押し付けた。
火がきっちり消えるのを確認すると、前触れもなく神代があたしに向き直った。
ふわり。
神代のシャンプーの香りを感じる暇もなかった。
あたしは神代に抱きしめられていた。