TENDRE POISON ~優しい毒~
遠くで波の音がした。
引いたり満ちたり……そのリズムは定まっていない。
波の音を聞きながら
あたしはこの恋が終焉を迎えようとしていることを悟った。
それは引いていく潮と同じように音を立てて、だけど確実に。
美しいけど欠けていく月を止めることができないように。
「先生……痛かったけど、あたしは今すごく幸せだよ。忘れられない夜になった」
永遠に忘れることのない、幸せで―――悲しい夜。
そう、これは始まりの夜なんかじゃない。
あたしにとっては終わりを意味してる。
あたしがそれ以来黙りこくったからかな。神代は枕に肘をついてじっとこちらを見ていた。
「……やっぱ似てないな」
「は?」
「エマさんに」
「何でその女が出てくんだよ」
冗談抜きで殺したくなった、この男を。何で今言うんだよ。
「や。ホント言うとね、彼女を抱いたのは彼女が鬼頭に似てたからなんだ」
「え……?」
「言い訳に聞こえるかもしれないけど、本当はずっと前から鬼頭に惹かれてた。まこを好きだと言ったのは本当だったけど、その言葉で自分自身を武装してたのかもしれない。
そのことで鬼頭を傷つけこと……本当に悪かったと思う。
ごめん」
あたしは体をずらすと、神代に向き合った。
「いいよ。怒ってないって」
人が抱く感情は様々だ。
憎しみや、怒り、悲しみや―――愛情。
愛にも色んな種類がある。
その愛を、神代はエマさんに見出そうとしていたんだね。
あたしが梶に告られて悩んだように。
でも、それは幻想でしかない。
誰かの代わりを求めても、その誰かにはなれないんだから。
あたしは神代の顔を引き寄せるとそっとキスをした。
その唇はさっきまでの熱を含んでいなかったけれど、かわりに温もりに満ちていた。
あったかいな。先生の唇は……
その肌の下に流れる赤い血も
同じぐらい温かいのかな―――
引いたり満ちたり……そのリズムは定まっていない。
波の音を聞きながら
あたしはこの恋が終焉を迎えようとしていることを悟った。
それは引いていく潮と同じように音を立てて、だけど確実に。
美しいけど欠けていく月を止めることができないように。
「先生……痛かったけど、あたしは今すごく幸せだよ。忘れられない夜になった」
永遠に忘れることのない、幸せで―――悲しい夜。
そう、これは始まりの夜なんかじゃない。
あたしにとっては終わりを意味してる。
あたしがそれ以来黙りこくったからかな。神代は枕に肘をついてじっとこちらを見ていた。
「……やっぱ似てないな」
「は?」
「エマさんに」
「何でその女が出てくんだよ」
冗談抜きで殺したくなった、この男を。何で今言うんだよ。
「や。ホント言うとね、彼女を抱いたのは彼女が鬼頭に似てたからなんだ」
「え……?」
「言い訳に聞こえるかもしれないけど、本当はずっと前から鬼頭に惹かれてた。まこを好きだと言ったのは本当だったけど、その言葉で自分自身を武装してたのかもしれない。
そのことで鬼頭を傷つけこと……本当に悪かったと思う。
ごめん」
あたしは体をずらすと、神代に向き合った。
「いいよ。怒ってないって」
人が抱く感情は様々だ。
憎しみや、怒り、悲しみや―――愛情。
愛にも色んな種類がある。
その愛を、神代はエマさんに見出そうとしていたんだね。
あたしが梶に告られて悩んだように。
でも、それは幻想でしかない。
誰かの代わりを求めても、その誰かにはなれないんだから。
あたしは神代の顔を引き寄せるとそっとキスをした。
その唇はさっきまでの熱を含んでいなかったけれど、かわりに温もりに満ちていた。
あったかいな。先生の唇は……
その肌の下に流れる赤い血も
同じぐらい温かいのかな―――