TENDRE POISON ~優しい毒~
◆午前4時の殺意◆
◆◆◆◆◆◆◆◆
マンションを出るとき、薄雲だった空は学校へ着くと、のしかかってきそうな灰色の分厚い雲に変わっていた。
一雨きそうである。
傘あったかな?
そう言えば置き傘を鬼頭に貸したっきりだ。
コンビニで買った安いビニール傘だ。別になくなってもかまわないけど。
鬼頭はあの傘をどうしたんだろう?
何となく後部座席を振り返ると、足元にビニール傘が横たわっていた。
手渡しで返してもらった記憶はない。
いつ……ここに置いたんだろう。
出し抜けに、体がざわざわと嫌な予感が通り過ぎた。
ぶるぶると頭を振る。
気のせいだ。
きっと僕の気づかないうちに返してくれたに違いない。
そう思うことにして、車を出ると空からぽつぽつと雨の粒が落ちてきた。
冷気がひゅうと嫌な感触で肌を撫でる。
ざわざわ。
僕の中で何かがざわついて、警告しているようだった。
「気をつけろ」
こんなとき何でまこの言葉を思い出してしまったんだろう。