TENDRE POISON ~優しい毒~
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優しい毒……
あの香りにそんな意味合いがあったなんて、知らなかった。
まこは気をつけろと忠告したけど、何に気をつければいいのかなんて分からない。
「先生」
数学準備室の扉が開いて、鬼頭がひょっこり顔を覗かせた。
相変わらず白い顔だったが、病的なものを感じない。
だいぶ良くなったようだ。
そのことにほっと安堵する。
「手伝いって何すればいいの?」
鬼頭は僕の向かい側に腰を下ろすと、鞄を机に置いた。
キーホルダーやマスコットが何もついていないそっけない学生鞄だった。
楠の鞄には大きなキティちゃんのぬいぐるみがついていたな、なんて思い出す。
そんな考えを振り払うように首を振ると、
「明日の宿題に使うプリントをまとめてほしいんだけど」と言った。
まるで言い訳するように。
「分かった」鬼頭は素直に頷くと、手を差し伸べた。
きれいな白い手だった。
気を付けろ―――
まこの言葉が頭をよぎる。