TENDRE POISON ~優しい毒~
僕はごくりと唾を飲み込んだ。
心臓が嫌な音を立てる。
「鬼頭……それを……しまいなさい」
僕の声は震えていた。
予想してたことだけど、みっともないな。
だけど、包丁を突きつけられて平然としてる人間なんていない。
鬼頭は僕を睨むかと思ったが、赤い唇に笑みを湛えた。
「い・や」
こんなときにも思う。なんて妖艶に動く唇なのだろう。
「……こんなところで騒ぎを起こしたら、君は停学か、もしかしたら退学になるかもしれないよ」
「そんなの怖くない。それにここで決着をつける意味があるの」
「何でこんなところで……」
鬼頭はちょっと瞬きをすると、笑みを湛えたまま包丁をちょっと上に持ち上げた。
「ここがすべての始まりだったから。終わりにするのもここじゃないと。
それに、ここで騒ぎがあったらあんたはもう教壇に立てなくなるよね」
鬼頭は嬉しそうにくすくす笑った。
「鬼頭……」僕はもう一歩近づいた。
「近づかないで!」鬼頭は叫ぶように言うと、制服のポケットからケータイをさっと取り出した。
開かれたケータイのディスプレイには、僕の部屋の前で僕と鬼頭が談笑する姿が映っていた。
こんな写真、いつの間に撮られてたんだ?
「それ以上近づくと、これをネットにばら撒くよ。あんたとあたしが普通の生徒と教師って関係じゃなかったって、この写真は裏付ける証拠になるよねぇ」
今更ながらそんな事実で、固めた決心は揺らがないけど、ここまで狡猾な鬼頭のやり口に少しひるんだ。