TENDRE POISON ~優しい毒~
「鬼頭、聞きなさい。僕は楠 乃亜を裏切ってなんかない」
「あら。話が早いわね。乃亜姉のことだって知ってたの?」
鬼頭はケータイをしまうと憎らしいほど可愛く首を傾けた。
「事情は楠 明良から聞いた。僕は楠のことを裏切ってなんかない。そもそも僕たちは恋人同士なんかじゃなかった」
ここで初めて鬼頭が表情を歪ませた。
怒りに眉を吊り上げてる。
「明良兄。裏切ったね」
「楠 明良は君を裏切ったわけじゃない。まこが問い詰めたんだ」
鬼頭は吊り上げた眉をそっと下ろした。今度は呆れた表情を浮かべている。
「保健医……か。あいつはホントに邪魔な奴だよね。もっと強烈なやり方で黙らせてやれば良かった」
僕は鬼頭を思わず睨んだ。
「鬼頭、まこに何をしたんだ?」
「何って、ちょっと写真をとらせてもらっただけ」
「写真?」
「そ。あいつを薬で眠らせて裸に近いかっこであたしと絡み合ってる写真。ばら撒かれたくなかったら大人しくしてろって言っただけ」
鬼頭はおかしそうに声をあげて笑った。
それで納得がいった。
まこの様子がおかしかったことが。
「そんなことまで……」
握った拳に力が入って震えていた。
そんな汚いやり方をしてまで、まこを利用したと思う怒りからだろうか。
それとも、僕を陥れるためにそんなことまでやる鬼頭のやり口に呆れていたのだろうか。
たぶんどれも違うな。
僕は、鬼頭にそこまでさせてしまった自分が何も知らなかったことを
恥じているからだ。