TENDRE POISON ~優しい毒~
「そんなことまで……なんて言わないでよ。あたしにはそれが全てだった。この計画に全部を掛けてたの!」
鬼頭は突如声を荒げた。
何が……彼女をここまで突き動かすのだろう。
彼女の中にどんな信念が眠っていたのだろう。
鬼頭の心の中を覗いてみたい、って思ったことは何度もあるけど、今ほどに強烈に思ったことはない。
「……僕を殺せば、それで満足?」
僕は眉を寄せて鬼頭を見据えた。
彼女の黒い瞳の奥底で一瞬何かが揺らいだ。
だけどそれはほんの一瞬で、すぐに深い闇を呼び寄せた。
「あんたを殺す?」
鬼頭は何がおかしいのか「はっ」と吐き捨てるように笑った。
「ふふっ…」小さく肩を震わせて声を押し殺しながら笑う鬼頭。
やがて鬼頭は「あははっ!笑っちゃう!」と高らかに声を上げて笑い出した。
少女の声は無邪気過ぎるほど可愛く狭い室内に響いた。
壊れた人形のように笑い声をあげ続ける鬼頭。
いっそ狂気ともともとれるような笑い声に、可愛いと思うより、僕は恐ろしくなって思わず後ずさりした。
やがて鬼頭はふっと笑うのをやめて、射るような眼で僕を睨んできた。
「ほんと。おめでたいヤツ。
どこまで平和なんだか」
「……違うのか……?」
鬼頭は僕の質問には答えずナイフの切先をそっと指でなぞった。
そして
「ねぇ、この包丁良く研がれてるよね。良く切れそうじゃない?」
と、またも無邪気に聞いてくる。
僕は無言で首を横に振った。何とか鬼頭から包丁を取り上げるタイミングを必死に計っていた
「あたしはあんたがどうやったら一番苦しむのか、その方法を知ってる。
でもそれはあんたを殺すことじゃない」
鬼頭は無表情に言うと、ゆっくりと包丁の柄を持ち替えた。
鬼頭は……
包丁の切っ先を自分の胸に向けたんだ。