TENDRE POISON ~優しい毒~
「彼女はいないよ」
僕は彼女の視線から逃れるように顔を背けて言った。
「なぁんだ。つまんない」
「つまんないって?」
「だって、こんなところで黙々と作業なんてつまんないじゃん。恋バナでもできればなぁと思ったんだけど」
恋バナ……
普通の女子高生らしいその発言に僕はいくらかほっとした。
「じゃあ好きな人はいるの?」僕は聞いてみた。
鬼頭はちょっと顔を上げると訝しげな目で僕を見た。
「何でそんなこと聞くの?」
僕は慌てて手を振った。
「いや、流れで……」
「流れ?」そう言って優雅に頬杖をつく。
彼女の仕草は何をとっても一つ一つ完成されたように、きれいだ。
「流れでそんなこと聞くの?
でもいいかも。そういう曖昧なの。」