TENDRE POISON ~優しい毒~
「はいはい、そこまで。早く楠の病室に行ってやれよ」
保健医が手を叩いて先を促した。
「うん……」
まだ言い足りなさそうな梶を残してあたしと神代は先を急いだ。
乃亜姉の病室の扉は開いていた。
中から声が聞こえる。おじちゃんとおばちゃんと明良兄の声だ。
病室の前に辿り着くと、あたしはぴたりと足を止め、深呼吸をした。
「雅……?」
神代があたしを振り返る。その表情が少し心配そうに歪んでいた。
「大丈夫。大丈夫だよ」
あたしは神代をまっすぐに見た。神代に言ったんじゃない。
自分に言い聞かせたんだ。
「うん」神代はちょっと微笑んだ。
あ。
あたしこの笑顔大好き。
神代のこの柔らかい笑顔で、今まで色んなことから救われた。
だから今回も大丈夫な気がする。