TENDRE POISON ~優しい毒~
「え?何で千夏さんが謝るの……」
僕の問いに千夏さんがちょっと眉を寄せて切なそうに笑った。
「あなたから誠人を奪って」
僕は目を開いた。
エマさんから聞いたんだろうな。当然……か。
「何も知らなかったとは言え、あたしはあなたにとってさぞ疎ましい存在だったでしょうね」
疎ましい……
確かにそう思ったこともあった。
でも、今は違う。
とても心が穏やかなんだ。
千夏さんに対する醜い嫉妬心も、まこに抱く激しい恋心も鬼頭と行った海で、波がきれいにさらっていった。
そんな気がするんだ。
そして……
今更ながら分かった。
まこが何故心優しいこのひとを選んだのか。
この人だったら楠が自殺を試みた理由も分かるんじゃないか。
そんな気がした。