TENDRE POISON ~優しい毒~
「楠……?どうして僕の番号……」
僕がすぐ近くで顔を寄せている鬼頭を見た。
鬼頭も驚いたように目をぱちぱちさせてる。
『忘れちゃった?前教えてくれたじゃない』
そう……だっけ。やばいな、記憶がないや。
『先生に話したい事があるの。今から病院に来れない?』
「え?今から?」
鬼頭は僕の隣で聞き耳を立てていたが、「いいよ、いっといでよ」と口だけを動かして言った。
「分かった。今からそっちに行く」
それだけ言うと通話を切った。
「何だろう……」ケータイを閉じて、僕が鬼頭と目を合わせる。
「さぁ、愛の告白とか?」
鬼頭は顔から表情を拭い去ると、静かに言った。
嫉妬してる、心配してる。そんな顔ではなかった。
敢えて言うのなら……
そう、鬼頭は楠が僕に何を話すのか知っていて、とうとうその時がきたのかという僅かな覚悟みたいなものを持っている。
そんな感じだった。